こんにちは。
合同誌(アンソロと言うほうがなじみかもしれませんが)を主催した経験を基にした備忘録、その2です。
今回は、原稿募集と編集作業の具体的な作業内容についてです。
前回の合同誌コラムはこちら→【とくべつコラム】合同誌を作る その1~企画編~
合同誌はコチラ!→ソリコレ~艦娘剃毛合同~のお知らせ C89

【合同誌の原稿募集の際に必要な提示情報】

何よりも、「執筆者が安心して原稿作成に取りかかれるように、具体的なことは極力丁寧に提示しておく」という姿勢が重要だ。
そして、大体次のことを提示すれば安全だと思う。
・テーマ
当然、提示すべき。ジャンル・キャラ・エピソード、指定条件がある筈なので。剃毛とか、エロとかギャグとか。
・目指す頒布イベント
次のコミケ、とか。
・締切
自分自身の原稿との兼ね合いや、編集の労苦を考えると、印刷所への提出期限の2~4週間前くらい、かなり余裕を持って設定したほうが絶対にいいと思う。締切が前倒しになると、参加者としても原稿を作成し易いように思うんだが、どうだろう。
・サイズ、規格
一般的な同人誌サイズ(B5)の白黒原稿だと、B5、右綴じ、モノクロかグレースケールで解像度600dpi、というのがよくある規格だと思われる。近頃はコミックスタジオ・クリップスタジオの使用者が多いおかげで、基準線の位置などが大体テンプレ化しているのでそのまま使えてありがたい。
カラー原稿となると、解像度350dpiが一般的な様子だ。
・一人あたり何ページ単位で担当して欲しいか
1Pイラストから参加可能という場合もあれば、最低2Pだとか最低8Pだとか、色々あると思われる。
・ページは右始まりか左始まりか
スクショ4
本に作品を寄稿する側としては、自分の作品が左ページから始まるのか右ページから始まるのかというのは重大関心事になる
1P分のイラストの場合でも、後述するように「自分の絵は本の右か左か」「どっちが断ち切り側でどっちがノドなのか」が分かっているかいないかで作り方が変わってくるし、「未定」の場合は「どっちになってもいい」ようにイラストを作らなければならない訳だ。
ちなみに、一般的な漫画雑誌では基本が左ページ始まりだが、今回の剃毛合同では右ページ始まりとした。
2Pで参加される方が多かったので、見開き単位で作品を表現して頂きたかったのだ。
参加者一人当たりの担当ページが多い場合は、左ページ開始が一般的になると思われる。
・性表現に関する指示
本が全年齢向けか成年向けかというのは重要なこと。
また、一定の性的表現(猟奇だとか、児童系だとか)を禁じるなど、レギュレーションを作っておくべきケースもある。
・返礼
やはり最初に提示しておくべき事柄だと思う。献本だけなのか、原稿料が生じるのか、とか。
・予定参加者
これを知らされるとプレッシャーが生まれて、いいよね。
・予定している印刷所
これを提示するケースをよく見かけるけど、何だろうこれ。印刷所によって色の出方が違うから知らせておきたい、ってことなのかな。
(追記!)
これに関してはyashaさんより次のようなご指摘を頂戴しました。感謝です!
印刷所の提示は、各印刷所によって原稿サイズが異なる場合があったり
(入稿サイズがB5+断ち切りのみでOKである場合もあれば、B5原稿でもA4サイズ入稿が必要な場合がある)
原稿のテンプレートが各印刷所のHPにあったりするので、原稿作成の基準として重要な情報になる

とのことです。
僕の場合は全部A4に再編集してチェックし入稿していたので問題なかったかもしれませんが、
「貰った原稿に手を加えずに配置して入稿する」ような主催形態だと、寄稿者での規格統一が必須になるでしょう。(実際は手を加えないことなどないとは思うのだが。)この旨も、主催側は寄稿者に予め伝えるべきかもしれない。

【原稿を作る際は】

一般的に、B5の本の原稿を作る際は、一回り大きいA4の用紙を用意して、描く。
サンプル02
時々、B5サイズの原稿募集に対してB5きっかりサイズの原稿を提出するケースがあるみたいだが、
実害云々抜きにして主催側が「あっこの人、原稿作成経験値がねえ」と一気に不安になるので、よろしくない気がする。

☆白黒?グレースケール?

原稿を白黒で描くか、グレースケールで描くかというのは、作家の作風で変わるし、原稿作成に不慣れな方は結構悩むことな気がする。
幾つか良し悪しがある様子だ。
・白黒原稿…クッキリして漫画的になる。基本のトーン線数は60ないし70の人を多く見かける。
原稿を拡大しながら作業すると、線がカクカクしていて「なんかキレイじゃねえな」と不安になるかもしれないが、印刷するとちゃんと繊細に出る。
・グレースケール原稿…濃淡の微細な表現が効くので、イラスト原稿の人はこっちを選ぶ印象が強い。
ただ、印刷所によってはグレーがすごく濃く出てしまったりすることがあるらしいので、そのリスクは念頭に置いておくべきなのかも。

【原稿チェック】

原稿チェックには数段階がある。
ここで、本の完成度を高める為に編集側は手を尽くさなければならない。
明らかな不備のあるページがあると、それが本全体の価値を下げてしまうのだ。
編集側で、出来ることは全部やる。少なくとも私はそういう心構えで臨んだ。その結果、以下のような作業過程が生じた。

チェックその1・仕様チェック

原稿が適切な仕様であるかを、ページに組み込みながら判定していく。
時たま、原稿サイズが違っていたり解像度が350dpiになっていたりするケースがあるので、そういう際は差し返して修正を要求する。
また、原稿に明らかな誤植、汚れなどが確認できた場合も、執筆者に問い合わせる。
そして、一番難儀したのが、これだ。
以下の編集作業は実際僕がやった事柄だ。
例えばこういう「右ページ配置の」原稿が来たとする。
サンプル1o
「まんがになりたい子」という漫画を今書き下ろした。
何かすごくまずい気がするの、わかりますか。
わかりやすくするために、基本線を表示してみましょう。
サンプル1
青色が基本線です。この原稿をそのまま本にしてしまうと、どうなるか。
クリスタの製本3Dイメージビューアで見てみます。
スクショ1

左端のセリフが読めない!左端の女の子の顔や手が見えづらい!
これだと、本の質を下げてしまう「こんな読みづらい原稿を放置するような奴が編集している本なのか」と判断されるからだ
さて、本には「綴じている側」というものがあって、そちらに食い込んだ領域に、絵、文字、書き文字、漫符があると、読みづらくなる。この領域をノドと言う。
ノドを、さっきの原稿で表示してみるとこうなる。
サンプル12
緑の領域:断ち切られる場所。赤い領域:ノド。
したがって、編集する立場として私は、原稿をこんな感じで可能な限り切り張りして、絵や文字を動かしていった。
サンプル2
……ノドの部分に絵や文字が入っていないでしょう。
これ、どこを変えたかわかりますか。
サンプル22
かなり細かく手を加えている。2コマ目は、文字を詰める為に文字全体を上にずらし、行を一つ詰め、それにあわせて噴出しの形も変えた。
3コマ目も、左の女の子をズラすために、連動して下の女の子もズラし、そうすると真ん中の噴出しの文字と衝突してしまうので、噴出しの大きさも文字の位置もいじっている。
こうすると、本にした時に、こう見える。
スクショ2
読みやすくなった。
修正がこっちの力ではどうしようもなく及ばない場合、執筆者に差し戻して、スクリーンショットに赤線などで指示し、修正を要求することになる。(こういうケースも勿論あった。)
……
こういう、編集側の修正の手間を省くためにも、寄稿者側は、原稿作成時にこんな感じのことを意識しておくと良い気がする。
サンプル3
スクショ3
本にしても読みやすい!ヤッタネ!
……ちなみに、上のような修正を私は剃毛合同で実際に数件、行った。
このことをある作家先生に言ったところ、苦笑いされてしまった。つまり、「親切すぎる」という奴なのだった。
だが、本のクオリティを高める為にはやるべきことだと私は判断した。編集作業というのは大変なのだ。

チェックその2・トーンチェック

寄稿者の原稿を集めてチェックしながら、原稿のトーン部分を確認する。
このチェックは厄介で、漫画作成・印刷の経験の浅い方の原稿を受け取る場合、しばしばこういうことが起きる。
下記はその一例。
スクショ5
原稿を拡大してトーン部分を見てみたら、こういうトーン処理がされていたとする。
つまり、「トーンがグレー」なのである。
これが不味い。
印刷すると汚くなってしまう(「モワレ」が出てしまう)のだ。そのような作品が、本全体のクオリティを下げてしまう。
どういうソフトでどういう描き方をすればこういう状況を招いてしまうのか私は正直わからない。
こういう場合は原稿を即座に差し戻して修正を請う形になる。編集側では対処できないからだ
寄稿をしたいという方は、ここは本当に本当に注意せねばならない。というか、知っていなければならない
影サンプル完成

1がダメな例。
2はオーソドックスなトーン白黒原稿。適正。
3はグレースケールで塗ってトーン化する白黒原稿。適正。かなり多いと思う。
4はグレースケール原稿。これも上述したようにリスクはあるけれど適正。
2、3、4の形になるように、原稿を作ることを心がけたい。
……なお、このチェックは、モニター上では難しいが、プリントアウトすれば問題を容易に発見出来る。本来ならば全ページをプリントアウトしてチェックしたいところだ。
但し、頂いた原稿をいちいちプリントアウトしてチェックするというのは凄まじい手間なのだ
この手間を編集者に負わせない為にも、寄稿者側が徹底的に意識するべき事柄だと私は思う。

チェックその3・局部修正

これも、参加するイベントの基準に合わせて入念に行う。
印刷所によっては(今回は「ねこのしっぽ」社さんにお願いした)、入稿後に印刷所で再チェックして修正を入れてくれる場合もあるが、印刷所側のチェックに期待して甘えるのは良いことではない。
そもそも全ての印刷所でチェックしてくれるならイベント当日での停止処分なんて一件も起こるはずがないのだ。
責任を持って頒布できるように、頑張らないといけない。

☆原稿締切を早めなければいけない理由

合同誌の原稿締切を、印刷所への入稿よりもずっと早めなければいけない理由というのは、
まさにこの「編集・チェックからの差し戻し」に時間がかかることにある。
主催者も寄稿者も会社員である場合、 「編集側がチェックして寄稿者へ連絡」「それを受け取って寄稿者側が修正し再提出」「編集側が原稿を受け取り、再チェック」(修正が足りていない場合、これを繰り返す
このやりとりにいちいち莫大なタイムラグが発生するのである。
これが締切直前だと、主催者も寄稿者も「もうムリだ、このままでいいや」とならざるを得ない。
不満足な原稿を入稿し製本し頒布するのは、関係する人間に様々な感情を与えることになる

主催者読者に負い目を持つ。
主催者寄稿者に怒りを持つ。
寄稿者主催者に負い目を持つ。
主催者寄稿者も、他の寄稿者に負い目を持つ。
 

……この責任、早々負い切れるものではない。下手をすれば人間関係の傷になることさえある。
だから、寄稿者側スケジュール管理原稿品質管理を可能な限り徹底すべきであり、
主催者側も、寄稿者側にスケジュール管理原稿品質管理適宜指示して行くことが求められるのである。締切一ヶ月前や一週間前などに、主催者は寄稿者に「原稿はいかがですか」とメッセージを飛ばしていくことになる。
共同作業というものが持つ意味」というのは常に考えないといけない、と、しみじみ思う。責任を持たなければ楽しいものにはならないって奴なのだ。

(追記)
☆それでもその人を誘いたい

編集作業のあれこれを語っていると、こういう疑問も出てくるだろう。
漫画原稿作成に不慣れな人には最初から声をかけなければいいのではないか」と。
実際、漫画作成にも合同誌寄稿にも慣れている作家同士の合同誌であれば、そして局部修正不要の全年齢本であれば、編集チェックの労苦は極限まで削減されるだろう。
だが、現実問題として、様々な理由と意味合いから、こういう編集労苦は起きるし、その労苦は引き受けねばならない
というのも、
それでもその人を誘いたいからだ。そして、その人の原稿を本に納めたい、のだ。その人の作品が好きだから
現代は特にそうだが、絵や作品の発表形態は必ずしも漫画とは限らない
ネット上で、魅力的なイラスト、カラーイラストやコミック作品を発表している作家さんで、製本経験や漫画原稿作成経験があまり無いという方は当然いるし、多い筈だ。
そういう方を本に招ける喜びというのは、主催・編集側としては凄く大きいのだ
この喜びが、編集労苦を完全に帳消しにしている
そして、このような機会と経験をもとに、その方がご自身で同人誌等を出されていくことになるとしたら、それは至上の喜びなのである。
上の編集の手間暇に関する記事が、本媒体への原稿を作ることへの垣根を下げることへとつながるなら、
そして漫画畑でない作家さんが本媒体に積極的に参加されることに少しでも寄与できるならば、有難い。
 
【台割(各原稿の配置)】

さて、編集者は、寄稿していただいた原稿をチェックしながら、本に配置していくことになる。 
その際も色々考える。
本の性質や編集者の意図によって、配置の仕方には様々な基準が生まれると思われる。

・「とりあえず知名度・クオリティの高い作品を前へ前へと詰めていき、読者を喜ばせる」
・「読者が読んでいて疲れないように、濃密な作品と読み易い作品とを、エロとハートフルとを、交互に配置する」
・「キャラやネタが被った時は両作品の配置を離す」 
・「原稿が集まった順に前から配置する」 

様々な考え方がある。正解もないし最善手もない世界なので、出した後に後悔は避けることが出来ないんだが、それでも編集側は手を尽くしたほうがいいと思う。

さて、長々とした合同誌コラム、次回の最終章は、広報、宣伝編となります。
 
 【とくべつコラム】合同誌を作る その3~広報編~