面白い漫画の情報というのはインターネットの海に宣伝バナーとかトゥイッタートレンドとかの形でそこらじゅうに落ちているが、
「いざ読もう」という風に食指が伸びるには、宣伝されているということ以上に、何かしらの「縁」みたいなものが必要ということがある。
そして、この「読むに足る縁のある作品」となると現実にはギョッとするほど減るというのが実状なのじゃあなかろうか。
そして、この縁というのを確保する仕方というのが限られまくっているからこそ、
バナー広告とかでの作品紹介は、お尻の穴に焼けたなんかを突っ込むとか婆さんを薬品で溶かすとかそういう感じの精神に電撃を与えてくるものが増えるのではないかと思う。
さて、僕は精神が老化してしまってこの「縁」の感度がへずれまくり、このままじゃマズいと感じたので、知り合いの作家先生から薦められた漫画は面白そうだったら速攻で買って読むということを心がけている。
で、ある漫画がものすごく面白かったのだが、その後この作品のウェブ宣伝バナー広告を見たらなんか全然パッとしなかったので、ここで紹介することにしました。

『第3のギデオン』。
スペリオール誌で掲載されている。(というか作品名で検索した時に「掲載誌」の情報が全然出てこないのすっげえアレな気がするので、雑誌社の公式HPとかAmazon紹介文とかもっとしっかりして欲しいとか思った。)
一巻の表紙。何やら意味ありげな仮面の美男子だが、こいつは主人公じゃない。ジョルジュという、主人公の友人だ。主人公ギデオンさんは2巻の表紙だ。なんか地味だから二巻に回されちゃったようにも思えるが、振り返ればこの表紙の順番は物語の内容にキッチリ関わってることにも受け取られ得るので、判断がつかない。

舞台はフランス革命前夜だ。『ナポレオン~獅子の時代』を読んでいる僕はフランスの歴史にそうとう詳しくなっているので、このあとの主人公達の運命に思いをはせるとしんみりする。
この作品、まだ5巻しか出てないくせに本屋さんの書棚に揃っていることがなかなか無くて苦しい思いをしたのだが、必死に行脚して買いそろえて読んだ。
すごく面白い。
これは愛の物語だ。
愛!
愛ってのは、つまりは動機が真正ということだ。
出てくる人間達がみんな、光と影を持ち、深い深い愛に基づいて行動をする。その都度の行動が愛に基づいたものということが僕らに伝わるから、僕らは読んでいてその人物達の光にも影にもしみじみと共感する訳なのだ。
我らが主人公ギデオンは平民(王族・貴族に次いで平民は第3の地位だから第3のギデオンなのね)で、インテリだが糊口を凌ぐ為にエロ小説を書いてて、議員になってフランスを変えたいと思っている。妻に別れられて男手一つで一人娘を育てた。彼は家族作りに失敗してるし、自分の心の弱さや罪を知っている。人間の罪のようなものを知っているからこその人間への愛があり、目の前の人間に対してのうわべじゃない共感がある。ギデオンは様々な出会いに巻き込まれ、窮地を助けてくれた旧友ジョルジュは王政打倒のテロリストであることが分かっちゃうし、しかもそのくせ主人公は王族とか国王ルイ16世とかマリーアントワネットとかとも仲良くなっちゃうので、つまり行く先々で衝突や抗争や陰謀の最前線に立つことになる。ギデオンはその都度、命の危機に晒されるし剣とか銃とか拷問道具とかを突きつけられまくるのだが、それでも血を流さない解決のために必死に交渉しようとする。インテリが暴力抗争の最前線で!言葉と説得で戦う!その時に説かれる人間愛は、甘ったるいくらいの人間愛にも思われそうなものなのに、これが上滑りせずに読者の胸を打つのだ。フランス革命というのはメチャクチャに進行して理想も理念も七転八倒グッチョグチョになる舞台なだけに、ギデオンの人間愛がどこに行き着くのか、ハラハラする。
ギデオンと対立することになる旧友ジョルジュ。こいつは貴族かつテロリストという厄介な奴だが、その根底には愛と悲しみがある、というか愛を裏切られた経験がある。満たされない愛が弁済を求めるときに、破壊に向かうというのはさもありなんという話だ。しかし、この愛の悲しみが多くの虐げられた人間を惹きつけもするのだ。しかも、行く先々で衝突することになるギデオンとの間には、やはりちょくちょくと真正の友情が垣間見えて泣かせる。
ルイ16世も出てくる。フランス国王だ。こいつは鍛冶が趣味ゆえにハンマーを持って戦うパワーファイターで、ものすごく強いし、紳士で優しいし、父だし、そして悩む人だ。ルイ16世は嘘をつけないという性質を持っている。尚且つ、目の前の人間が嘘を言っているかどうかを見抜ける力を持っている。「嘘を見抜ける」という属性と「優しい」という性格とはものすごく相容れない。だからルイ16世は苦しむ。泣かせる。メチャかっこいいぞ。夫婦愛・家族愛に悩む者同士であるギデオンとルイ16世には不思議な交流が生じ、愛の問答を交換したりしてすっげえ面白いから読んで。
マリー・アントワネットも出てくる。アホっぽしスケベな感じに描かれているし、国民の不満の矛先にされて、年がら年中叩かれてエロ小説の題材とかにもされちゃってる子なんだが、こいつも一筋縄では行かない。根底にはシンプルに根の深い人間愛があり、愛に由来した頭のよさとガッツがあり、かっこいい奴だ。
ロベスピエールも出てくる。こいつも悲しい奴だ。すごい人のいいインテリなのだが、その根底には父親への愛が裏切られた経験があり、それがやがて父性そのもの(=国民の父というイメージを担い続ける国王)への破壊へと転化していく。しかし父性への憎悪には、虐げられた子供への深い同情があるものだから、これもまた切ないのだ。
登場人物がいちいちかわいい。サンジュストはナメたジャリでありながらちょっと必死で可愛いところがあって、それがギデオンにとっては弟のように思えてしまう。ルイ16世の弟は結構小ざかしい奴でギデオンを拷問したりした悪い奴なんだが、これもいざとなると味方になったり、愛があったりして、一筋縄でいかない。ギデオンの目の前に出てくる人物は、不思議な二面性を常に携え続ける。
舞台そのものも、常に二面性というか矛盾を携え続ける。貴族とかはメチャ横暴で平民は困窮に喘いでいる。しかし、平民は貧乏なので他人に愛を施す余力なんか無いし、無教養なので説得や弁舌が通じないし暴力ばっか振るってくる。教育を受けた貴族の方が、金と教養に裏打ちされた愛と施しがあり理知があるのだ。しかし、その愛がまた平民にとっては高慢に映る。これは現代にも通じるなんかを感じる。そしてこの厄介な世界を、ギデオンは揉みくちゃにされながら泳ぎ続けるのだ。
この泳ぎがフニャフニャしたものに見えない理由があるとすれば、それはギデオンには強い人間愛があるからで、つまり真正な動機があるということだ。ギデオンの戦いを見届けたい。
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4巻になって、ちょっと共感不能の悪い奴が出てきたり陰謀が渦巻いたりして展開が胸糞悪くなって「ちょっと読むの嫌だな」とか思ったのだが5巻は面白かったし、多分6巻はもっと面白いと思う。早く続きが読みたいのだ。面白いよ!
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しかし、こういう作品が、まだ5巻しか出てないくせに、書店に揃っていないというのはものすごく切ないことだ。でも面白いし多分話題になりやすい作品の気がする。