ビフィダスです。5月頭から休みを取っているつもりなのですが、
全然休めた気がしないのは僕が北海道に行っていないからでしょうね。
取材に行きたいが…

さて、私の中での最新作にあたる失楽天掲載「香リ合ワセ」
自分の中でもかなり性質の悪いストレスの中作業を進めた作品で、結果として作家生命にダメージを負い、おかげで今ダラダラと休みの時間を設けているのですが、
その切迫した作業の中で、我ながら「あっ」と感じたことがあったので、備忘を兼ねて残しておきます。
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「今日頑張れば明日には入稿できる、そしたらGW巨大連休前の編集さんを楽させてあげられる」みたいな不思議な義務感のもと、ヘコヘコと仕上げ作業を行っていた時のこと。
仕上げ作業というのは、ペンを入れた原稿に更にトーン(白でも黒でもない灰色のとこね)を貼り終えて、
ここからフキダシ(セリフを囲っているフワフワ丸いヤツね)とか効果描き文字(ドドドとかギシギシとかそういうの)を入れ、
セリフもその際に「多過ぎる」とか「なんか通りが悪い」とかで手を入れる、まあ読者の読み味を想定しての最終チェックのようなことをする作業行程なのですが、
その折、次のコマでふと気づきました。
s209
男が女に覆いかぶさりながら会話をしているシーンです。
…ヘンですよね?これがヘンということを、私は仕上げの段階でやっと気づくことが出来た訳です。
わかりますか?皆様にはわかるでしょうけど、描いている当人がわからなかった。本当、漫画の描き方初心者レベルみたいなことなのに、気づかなかった。
間をおきます。





はい。

二つのフキダシのうちの最初のセリフを、男と女のどちらが喋っているのかが、分からない。

この二人、顔の位置が近接しすぎているので、フキダシのトンガリ(正式名称を知らないけど、セリフを喋る人物の位置とか口の位置を示す尖ったパーツね)だけではセリフの喋り主を識別出来ないのです。
純粋にセリフだけ見てみると、二~三行目を見れば、「なにかの感想を言っていて、それは男側が言ってるセリフらしい」ことは想像できます。
が、問題は、セリフの一行目です。
「なんか」の時点では、このフキダシのセリフが誰に所属するのかが明確でない。
となると、読みながら読者の皆様は、この「なんか」のセリフを男の声で理解するべきか女の声で理解するべきか「わからない」ことになる訳です。
これは不味い。
描いている当人は「このセリフは男のモノ」と最初から知っているので、こういうことを見過ごしがちになってしまうんです。

これに気づいて筆が止まりました。さてどうしよう。
その時考慮した策をいくつか順に提示しておきます。
1、前後の脈絡をいじって、このコマのセリフがどう読んでも男が喋ってるターンであるように示す
→トーンまで貼り終えた前後のコマや流れをいじるのは高コストで、しかも読み口に害をなす可能性がある高リスクな方法なので却下。仕上げの時に手を入れるのは最小限のことでありたいマン。何故なら締め切り間際で思考力が落ち自信も無くなっている時に慌てて何かをいじると、全体の調和を大きく乱してそれに気づかないことが多いから。
ちなみに…
参考
大ゴマの右上とか大ゴマの直前に小さいコマで話し手の顔とセリフを入れて、次の大ゴマでのセリフ主をはっきりさせる手というのはあって、これはそこらじゅうで割と使われている気はする。
大ゴマの右上だと、こんな感じ。
参考3
大ゴマの直前だと、こう。
参考2
2、絵を差し替えて、男と女の顔が離れた構図にする
→トーンまで貼り終えた大ゴマを締め切り間近で変えるのはイヤなので却下。
3、フキダシのトンガリをニョイーンっと伸ばす
参考4
フキダシのトンガリを適切な仕方で伸ばすことや、フキダシ位置を適切な位置に動かして読みやすくするというのはスーパー基本的で良い手だとは思うのだけど、
絵や画面との兼ね合いでその手が使えないってことは、あります。仕方ないね。
今作では却下。
4、フキダシの中に、キャラの名前だとかデフォルメ顔とかを入れて話し主を明示する
参考5
セリフしかないコマとか、人物の多いスポーツ漫画の多人数発言シーン・解説シーンだとよくあるケースだけど、これも私の今作の画面には合わないし、画面情報量的にも煩わしい&合わないので却下。
5、男のフキダシの形や色を変えて差別化する
参考6
これもよくある手だが、こういう場合Cのセリフは前後から黒フキダシになってる、みたいな文脈的統一性がないと成立しないので、僕の今回の作品ではあまり使いたくない。
あと、フキダシの色が黒い場合は発言状況や発言人物が特殊というイメージ(NPCとか、悪の存在だとか、竿役おじさんとか、あとは物凄くどす黒い一言とか)があるので、ちょっとここでは使いたくない。別にこれは約束事はないので上手くやれば使えるとは思うけど。

じゃあどうしたのかというと…
まあつまり、フキダシに工夫をせずに、発話者を明示する為に有用だと思ったことをやりました。
その内容は…本誌をご確認いただけると嬉しく存じます(販促ムーブ)。
コミフロはこちら!https://komiflo.com/comics/5348

いかんせん、
ネームの時点で気づいていなかった自分が悪いということではあるのですが、
ネームが比較的乱雑でもチェックを通ってしまうケースは結構あると思う(作家がデビューして間もないとかデビュー前とかだと、編集さんに徹底指導される内容だとは思うが、編集さんに基礎的なことをある程度教えてもらったら、あとは自分でチェックすべきだと思うのでやっぱ私が悪い)し、
あと、線画のチェックを入れてもらう際には作業行程の都合上、セリフを出力しないまま編集さんに提出してしまうことがあるので、
結局、作家自身がしっかりチェックするしかないことな気がする。

危なかった。
漫画を皆様にお届けする際には本当小さくも重要な苦労があるということに、しみじみ気づかされたというお話です。
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漫画って、どこか読みづらい箇所があると、その瞬間に気づかぬうちに心の歯車が作品から1mm1mm離れていって、やがて目と脳が画面からスゥーッと離れていってしまうというケースがあるので本当怖いと思う。
一方、読みづらいくせに、何度も何度も繰り返して謎を解くように読んでしまい、グイグイ引き込まれてしまう作品というのもあって、ワタモテとかがそれだと思う。でもそれも、ワタモテが「心の謎を提示し、それを解く」という構成で出来た物語だからというところが大きい気がするので、「読みづらい作品ほどみんな読み返してくれる」みたいなことでは決してないと思う。思う思う。全部推測で全部仮説だけど、この仮説はかなり耐久性の高い仮説なので僕は暫定的に信じている。
漫画ってほんっとーに面白いですね。